2014年10月25日 「簡易鑑定」の依頼をちょくちょく受けますが、「簡易鑑定は無くなった」というのをご存じでしょうか?
平成21年9月「不動産鑑定評価制度改正に関する指針等」((社)日本不動産鑑定協会)によって不動産鑑定士は「簡易鑑定」を行ってはならないこととなりました 。 裁判では精神鑑定等で簡易鑑定が行われておりますが、不動産について法令上「適正価格」や「時価」を求める場合には、原則として「不動産鑑定評価基準」という法令に全面的に則った不動産鑑定(本鑑定)を行わなければなりません。
この点は費用や期間が限られているので簡易鑑定で良い、という訳にはいかなくなりました。 不動産鑑定(本鑑定)によって求めた「正常価格」が原則として、「適法」な「適正価格」や「時価」です。簡易に評価を行う場合には、成果物である書面に「(簡易)鑑定」という名称を付けてはならず、「不動産価格意見書」もしくは「不動産価格調査書」等としなければなりません。
これら「不動産価格意見書」、「不動産価格調査書」で求める価格はあくまでも「正常価格を目指した価格」であって「正常価格」ではありませんので、原則として不動産の「適正価格」や「時価」にはなり得ません。法令上の根拠がある場合にだけ例外的に「みなし時価」とされます。 「不動産鑑定評価基準」という法令に本鑑定を行う際の技術規範が定められていますが、「不動産鑑定評価書」という書面を発行する場合には原則としてこの不動産鑑定評価基準に「全面的に則って」作業を行わなければなりません。もし一部でも不動産鑑定評価基準に則らないで簡便に評価を行う場合には、原則として「不動産価格意見書」又は「不動産価格調査報告書」等という表題の書面発行となります。
但し、これら簡便な評価についても次のような「一定の場合」しか行ってはならないのです。つまり、以下の要件を満たさない限り、不動産鑑定士は「本鑑定」を行わないといけないのです。依頼者が期間や費用の問題で、簡便な評価で良いからと言っても、「いや駄目なんです。本鑑定でないと駄目なんです。」とお伝えしないといけないようになったのです。どうかご理解下さい。
意見書等が発行できる場合
•同一の物件に対して再評価を行う場合で前回評価からあまり期間が経過していない場合
•交渉の材料等「手元資料」としての利用に留まる場合
•利害関係人全員から鑑定ではない簡便な評価書であることについて承諾があり、かつ簡便な評価で対応することに合理性がある場合 •実現性や合法性等の面から鑑定を行うことができないが社会的にみて評価を行う合理的な意義がある場合
•「証券化対象不動産の継続評価の実施に関する基本的考え方」(及び協会の証券化実務指針)に則っている
•「財務諸表のための価格調査の実施に関する基本的考え方」(及び協会の財務諸表実務指針)に則っている
また、よく質問を受ける事項として、「不動産鑑定(本鑑定)」による鑑定評価額と「不動産価格意見」や「不動産価格調査」による価格との間に開差がどれくらい生じるのかということがあります。これにつきましては現実に不動産鑑定を行わずに判定するのは困難な事項といえます。後者でも適正価格を目指して評価を行うわけですが、手続きが簡便であるため詳細な手続きを踏む本鑑定を実際に行うと、様々に開差が生じる要因があるのです。
上記のような法令改正の背景には、主に民間の分野で「不動産鑑定評価書」という名の下に粗悪な評価が出回り、不動産鑑定の質の低下(モラルハザード)が生じるおそれが発生し、国や協会が手を下したものだと思います。
弊社はこのような法令改正より何年も前から、業界のこのような状況を危惧し、「不動産鑑定書」と「簡易な評価書」の峻別を行っておりました。当然の法令改正であったと思いますが、簡易な評価に対する依頼者のニーズは実に様々です。そのような依頼内容に応じて、評価方法を駆使して対応していくのが不動産鑑定士の腕の見せ所でもありましたが、今回の法令改正は縛りが強すぎて、今後、社会の様々な評価ニーズに対応していけるのか危惧しています。
以上は、私が過去に書いたブログですが、その後も、簡易鑑定を改めない業者が相当いたようで、真面目に法令を守っていた業者に対して逆にクレームが出たりしていました。今回遂に、日本不動産鑑定士協会連合会から「お達し」が出ました。