先日ある事業施設裁判の鑑定で、私は被告方から依頼をうけ鑑定書を書きました。原告からも鑑定書が出ており、決着をつけるために裁判所も第三者の鑑定士から鑑定書をとることになりました。
その裁判所からの鑑定書の中で、築30年以上の対象不動産の設備について「所要の修繕が行われており」経済的残存耐用年数は20年としていました。建物設備(エレベーター、電気、給排水、空調等)についての経済的耐用年数は一般に15年といわれています。これについて説の対立はありません。ところで、この考えでいくと、上記裁判所の鑑定は建物設備の経済的耐用年数を30年+20年=50年とみていることになります。これは建物設備の経済的耐用年数としては常識はずれに長い期間です。
私共は書面の中でこの点を判所指定の鑑定人に質問しました。その回答は「所要の修繕が行われております」というものでした。ところが、裁判の証拠書類の中では、建物設備業者発行による「建物設備の調査及び更新見積書」という書面が出ていました。その書類の中で設備については今迄に更新されたことはなく、今回全面的に更新する必要がある旨、報告されていました。つまり対象建物設備は事業用として細目に「所要の修繕が行われている」ものの、「更新」は行われていないのです。
これは建物価値という観点からどういうことかといいますと、「修繕」だけでは機能保全に留まり、経年通りの劣化は不可避です。「更新」を行うと設備は一新しますので、価値についても復元することになります。「修繕」と「更新」は建築上のみならず、建物価値評価上も大きく意味が異なる概念なのです。裁判所指定のその鑑定士は両概念を同一程度の内容と誤解していたようです。建物はショッピングセンターでしたので設備の価格割合が建物全体の30%を占めるため、認定誤りは数億円に及び大きな価格差を生みます。
裁判所の体質としては自薦の不動産鑑定士について一応信用するという前提があるようですので、裁判当事者としては大変な被害をこうむることになりかねません。言うまでもなく、裁判所は法的紛争に関する最終的裁定機関です。真に公正な判断が望まれますが、現実は人間が運営する以上不完全な点が色々とあるようです。土地に強く建物に弱い不動産鑑定士の実態を垣間みた案件でした。
建物設備の修繕と更新 建物価格への影響
2018年10月18日