先日税理士さんから相続に関する土地評価のご相談がありました。被相続人生前から相続対策に関与されておられ、同族の不動産会社をつくって、個人所有の土地を当該会社が借地し無償返還届けをした上で、当該法人所有建物を賃貸に供していました。今般、個人底地所有者の相続が発生しました。当該底地価格について鑑定で低くならないかというものでした。このパターンだと底地の相続額評価額は、割合法を使って更地価格の80%だったなあと、とっさに思いました。これで申告すれば税理士さんとしては基本良いのでしょうが、私としても折角のご相談ですので色々と考えてみました。
底地や地代といった分野は価格の判断が難しく、鑑定士が同じ土地を評価してもかなり価格差がでます。底地価格を判断するポイントは、設定権利金、地代、借地権の態様です。今回の場合は無償返還届けを税務署に出しており設定権利金はありません。地代につきましては設定権利金が無い場合、通常、借地権が弱く地代の性質上、相当地代の授受が必要となります。もっとも、税務実務では、固定資産税の3倍程度の地代というのが一つの目安のようでした。使用貸借ではないレベルの最低賃料ということです。これは、上記の原則からすると低きに失する賃料ですので、認定課税が行われないのかと思い、税務署資産税課OBの税理士さんや新人会の方に訊いてみました。税務署はこの点は余り問題視していないとの感じでした。
底地価格の話に戻ります。まず、設定権利金が無いからといって一律底地価格が更地価格の80%というのは少し違和感があります。世の中の借地権をみると、往々にして一時金の授受が不明とか授受がないという場合もあると思います。実際に底地の取引事例を無作為にたくさん集めて分析してみますと更地価格に対する割合は10%から120%とか幅広い範囲に分布しており、80%近くに一定数事例が見られるというわけでもありません。30%から40%位が標準値のようです。この結果からは、周辺地域における実際の底地の取引における底地割合は80%よりだいぶ低いと考えられそうです。
また、底地価格の本質は地代徴収権に基づく収益価格です。この点から、地代が高いと底地の収益価格は高くなり低いとその逆となります。ここで私は悩みました。税務実務では一般に上記の様な低廉な地代授受が行われているようで、低廉な地代とわかりつつ現状地代を収益還元して、底地価格を低く出すことが可能だからです。これに対応するには、現行地代を相当地代に補正して底地価格を出すという方法があります。この場合の地代は現状とかなり離れた金額となると思います。仮に、これら底地を売りに出すとすれば、購入者としては現状低廉な地代しか収受できない底地であるが、将来あるべき地代に改定することができるとの期待を持つと思います。最悪地主と訴訟になると思いますが、当該借地権が同族間の借地契約に基づくものであることから、裁判でも一定程度は地代増額となるとも考えられます。もっとも、鑑定士が補正を行っていくらの賃料となるかを適切に予測するのはほぼ無理でしょう。以上から、現況地代をそのまま利用し、これを地代改定の可能性を織り込んだ還元利回りで還元して、収益価格を求めるのが妥当と考えられます。 以上のように底地価格を求めますと税務の評価額より相当低い価格となりました。